大学教員と育休

 先日、両立支援のコンサルやアドバイザリーをなさっている林田香織さんから、過去に育児休業を取得した経験がある大学教員として下記に関してコメントを求められました。

 「育休をとっても、研究をしてしまう(休めない)」という声についてどう思いますか?という趣旨の質問でした。

 これへの回答は、自分自身の育休に対する考えを整理するいい機会になり、かつ、これから育休を取得しようと考える研究者の方々(似たような業種の方々)の参考になればと思いブログに公開ました(以下、コメント原文)。

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「育休をとっても研究をしてしまう」というという声についてですが、僕は育休中に研究をすればいいと思います(後述するように、実際、育児中にそんな余裕は殆ど無いので工夫が必要ですが(笑))。つまり、「研究をしてはいけない」などと否定的にとらえるのではなく、「育休=自分のペースで研究が出来る時間」と捉えなおせばいいと思います。

大学教員の業務は以下に大別できます。

1.研究

2.学生の研究指導

3.ティーチング(立ち講義)

4.その他雑務(入試関連業務など)

 育休を取得すると、制度的に「休業(休暇)」ですから、理屈上、全ての業務が免除されることになるかと思いますが、実際はそうはいきません。「1」「2」は替えがききにくい業務だからです。

 特に「1.研究」は、全く替えが利きません。大学教員の場合、子供を授かる時期は30代~40代になると思います(20代は大学院生)。この時期、多くの方は任期付き講師や専任講師、准教授など、世界中の同世代の研究者と切磋琢磨しながら研究業績を積む時期かと思います。今後の自身のキャリアのことを考えると、そういった時期に「研究の足を止めること」は半ば恐怖です。研究業績の遅れは自分自身のキャリアの遅れになると考えてしまいがちだからです。

「2.学生の研究指導」も代替が利きにくいです。特に大学院生の研究は専門性が出てくるのでその指導を他の先生に任せることは難しく、特に自分自身が学生と一緒に共同研究していたりすると他の先生に任せることは不可能です。「僕(私)は育休とるから、あとは自分で研究頑張って」などと放置すれば、その学生の学位取得時期は遅れ、人生を狂わせてしまいます。

 以上より、僕は「1.研究」と「2.学生の研究指導」に関しては育休中もどんどんすればいいと思うのです。

 一方で、育休を取得するメリット「3.ティーチング(立ち講義)、4.その他雑務(入試関連業務など)の免除」は享受できます。育休を取得すれば大学に出勤する義務(身体が拘束されること)が無くなります。

 つまり、我々大学教員は「育児休業」を「雑務、出勤義務のない研究専念期間(ある意味、サバティカル[大学教員が一定期間勤続したあとに取得できる研究専念期間]のようなもの)」と捉えなおせば良いと思います。

 育児休業給付が10割相当になると言われていますよね。そうれば、本当にサバティカルみたいになりますね。

 しかし、育児休業中に研究に専念できるかというとそんな甘くありません。僕も子供たちの育児の時(脚注1)に思い知らされました。第一子を授かった当初、赤ちゃんが寝ている間に研究が出来ると思っていました。しかし、赤ちゃんは数時間おきに何かをしでかします。ミルクを飲ませて寝かしつけ(30分くらいかかりますかね。なかなか寝ないと1時間超え。)、哺乳瓶を洗って、さぁ机に向かう・・・しかし、30分くらいすると赤ちゃんが泣きだす(ウンチ)、おむつを替える。「ゲッ!おしっこ漏れてベッドも服もビショビショじゃん」、着替えさせたりベッドのシーツを洗濯機に・・・「さぁもう一度寝かしつけて研究だ!」と思うけど、子供は少し寝て元気いっぱい・・・ベビーベッドでバブバブ言っている子供を放置して研究するわけも行かず(そもそも研究したとしても集中できない)、話しかけたり本を読んであげたり・・・そうこうしているうちに、再びミルクの時間到来・・・同じようなことの繰り返し・・・

 まぁ、育児中に集中して1時間以上連続して研究が出来る時間は無いと思ったほうが良いです。ごく稀に、長時間ぐっすり眠ってくれるラッキーベイビーもいるらしいですが、残念ながら我が家の娘&息子は2人ともショートスリーパーでした。

 この経験を基に、これから育休を取得する研究者の方に是非試してほしいのが、

・パートナーと担当制にする(午前と午後で育児・家事担当を決める)

・ファミリーサポートなどの制度を上手く使って数時間の余白時間を作る

などの工夫です。前述の通り、家で育児をしながら研究をしようと思うと集中して研究できる時間は30分程度です。しかし、上記のような工夫をすれば、午前か午後に育児家事から解放され、2⁻3時間くらい時間が確保できます。2⁻3時間、集中して物事を考えたりする時間を作ることが出来れば、結構満足いくものです。

 たった3時間・・・と思うかも知れません。しかし、ティーチングやその他雑務がある時、1日の間に3時間も研究に割く時間はないと思います。それに比べれば「育休期間」は研究に割ける時間が多いと考えることが出来ます。「疑似サバティカル」と捉えて、育児と研究を楽しむ時期と考えれば良いのではないでしょうか。

脚注1
<我が家の育休取得について>
 1人目の子(娘:12月生まれ)は生後4か月の4月から保育園に入園(無認可保育園。月6万くらいだったかな・・・高かった~)するのですが、それまでの4か月間は妻も僕も育休を取らず手分けをしながら子育てをしました。
 妻は会社経営者なのでそもそも育休がない。よって、仕事をセーブして1月は全休にし、2月から仕事復帰。僕は大学教員なので2、3月は講義がないことをうまく利用し自宅で娘の育児をしながら在宅勤務。当時の大学の学部長・学科長などに相談し、2、3月の間の雑務の軽減などのご配慮を頂きました。その時期に育休を取るという手もありましたが、若手研究者で給与も低かったので、収入が給与の7割程度になる選択肢はなかったです(住宅ローン返済もありましたし)。
 2人目の子(息子:8月生まれ)の時は、8月末から9月にかけて(後期の講義が始まる前まで)約1か月間育休を取得(妻は出産して数週間休んですぐに仕事復帰)。1人目の時に取得しなかったので社会経験もかねて育休取得(給与7割の休業給付を見て愕然としましたが[笑])。後期開講に合わせて9月末に仕事復帰。まだ息子は保育園に入れないので、豊島区のファミリーサポート(3人のサポーターさんを駆使)、民間のベビーシッターサービス(当時、豊島区から補助が出た[12月頃からだったかな・・・])を使用。仕事復帰とはいえ、講義などが無い日は基本的に在宅で育児。生後半年の4月からは区の保育園に無事に入園。


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